『沖縄県民も知らない 沖縄の偉人 日米の懸け橋となった男たち』
琉球王国時代の沖縄の社会状況は、日韓併合(1910年)前の朝鮮(李朝末期・大韓帝国時代)と似ている。閉塞した王政下で、近代化は絶望的に立ち遅れ、民衆は貧困と圧政によって塗炭の苦しみの中にいた。
嘉永6(1853)年、琉球へ上陸した米海軍のペリー提督の言葉が紹介されている。《(琉球の)最下級の人民(農民)はまったくの奴隷であって、公民権もなく個人的自由もない…農地は政府(王府)が所有し、しかも(収穫物を集める)監督人が大部分を横領してしまう…》。
権力者層がロクに働きもせず、政争に明け暮れている点も朝鮮と同じだ。《(琉球)王国内には探偵政治が横行し…貴族階級は暇を持て余し、昼間から…飲酒をしている》と。沖縄の近代化はようやく、明治の日本政府によって端緒につくが、王府内の中国系官吏(帰化人)が「抵抗勢力」となって、ことごとく妨害したという。
本書には、貧困と陋習(ろうしゅう)に苦しむ沖縄を救うために、アメリカへ渡り、「懸け橋」となって沖縄の近代化に尽力した3人の男の物語が書かれている。
「沖縄移民の父」と呼ばれる當山久三(とうやま・きゅうぞう)は、ハワイへの移民推進運動を進めた。沖縄に移民ブームが起こり、やがて移民がもたらす富や情報、技術は沖縄近代化への力となってゆく。2人目のトーマス・H・イゲは、ハワイ大学経済学部教授を務め、アジア太平洋の交流に尽力した移民2世。最後は、琉球政府行政主席として、沖縄の日本復帰(昭和47年)のキーマンとなった松岡政保(せいほ)だ。
3人が、沖縄の金武(きん)町にルーツを持つのは偶然ではない。《先の大戦の被害者意識を底流としたイデオロギー教育が小中学校で行われてきた》という戦後の沖縄にあって、進取の気性に富み、戦前の歴史を正確に伝えてきた土地なのだという。
反基地闘争や「反日」の運動家ばかりが英雄視される現代の沖縄社会にあって、彼らの業績にスポットライトが集まることはほとんどなかった。米トランプ政権の高官には沖縄移民の子孫もいる。中韓系アメリカ人ばかりが目立つ中で、沖縄移民の活躍と、知られざる歴史に焦点を当てた興味深いノンフィクションだ。(惠隆之介著/育鵬社・1500円+税)
評・喜多由浩(文化部編集委員)